血は水よりも濃いのか?

 数年ぶりに『ゴッドファーザー』シリーズを観直してます。今PART2を観終わったところで、なんとも言えない感覚に包まれています。いやー、やっぱりいい映画だ。
 この作品はアメリカでのイタリアンマフィアの栄光と凋落を丹念に描いています。日本でも高評価な作品ですが、その理由はイタリアンマフィアの生き様や美徳というのが、任侠映画で描かれるヤクザのものと非常に似ているからでしょうかね。
 そんなことはさておき。


 『ゴッドファーザー』はとても激しい映画ですが、同時にとても静かな映画でもあります。確かに暴力シーンも多く、人がバンバン死に、男女問わず叫びまくったりしますが、それでもなお静かな映画だと思います。
 それはなぜなら、とても論理的だからです。登場人物のほとんどが感情で人を殺していない。その反面、人が死なず言い争うような場面ではとことん感情的に描かれています。


 『血は水よりも濃い』のか?
 主人公の妹は最高にヒステリックです。兄ソニーの部下カルロと結婚しますが、浮気されヒステリーになり夫に虐待を受けます。兄が助けに入ったりしますが、結局兄は罠にはめられ殺されてしまいます。2ではそんなことがあったのにも関わらず、事件後すぐに他の男と結婚しようし、主人公の諫め言葉にヒステリーを起こし、挙句の果てには金をぶんどり、家を出ます。
 パート2ではなんやかんやありつつ、一段落した主人公の元へやってきて、「家に戻りたいの」などと抜かしやがります。
 彼女に当てられた役割はあきらかに『感情』です。主人公の徹底した論理を揺るがすために、ここまでのひどい役割を任されているわけです。
 ちなみに演じているのは『ロッキー』でご存知の方も多いでしょう。あのエイドリアンを演じた女優さんです。


 主人公の父は一からファミリーを築き上げた実績や信頼もあり、また時代とマッチしていたがために『血は水よりも濃い』を地でいきます。
 しかし、途中までカタギとしてファミリーから一歩外において育てられた主人公は必死に父のような振る舞いを身につけようとし、事実それはとても上手くいっているのですが、それは時代とマッチせず幾多の裏切りに合い、それでも『血は水よりも濃い』を信じようとします。
 この残酷な対比がゴッドファーザーの物語としての魅力の一つでしょう。

あなたの血は水よりも濃いですか?

 さて、ここで考えてしまうのがやはり自分にとっての血は水よりも濃いか? ということです。いざとなったら血縁者の方が頼りになる、といった意味合いの言葉ですが、現代社会においてはどうなんでしょうか。


 大抵のことはお金があれば問題解決できるのですが、作中では次兄フレドは安定した生活を享受しながらも弟に嫉妬し、妹は前述の通りヒステリックな超利己主義者として描かれています。お金があってなお、血縁者で骨肉の争いをしてしまった彼ら。色々考えてしまいますね。


 僕の血は水よりも濃くはありません。確かに本当に困ったときに助けてくれるのは家族なのかもしれませんが、それでもなお友人を信頼したいと思ってしまいます。これが冷たい価値観なのかはわかりませんが、僕にとってはこれが自然かなーと。
 もちろん孝行したい気持ちはあるんですが、それは自分に余裕があってのこと。自らの肉を削ってまで、というのが美徳なんでしょうけど、残念ながら僕にはできないなぁと感じます。


 想うことと想われることはきっと等価値ではないんですね。

いい映画やのう

 ともあれ、ほんといい映画です。女性にはわからない価値観かもしれませんが、男性なら少なからず感じ入る所がある作品でしょう。
 いい映画は観た人の価値観を揺るがすものなのかもしれませんね。考える、再認識する。たった数時間でそういった機会が得られるのですから、素晴らしいもんです。

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